取材協⼒ NPO 法⼈Alopecia Style Project Japan 代表理事 ⼟屋光⼦さん

脱⽑症、抜⽑症、乏⽑症、無⽑症、治療の副作⽤など、さまざまな理由で髪を失うヘアロス。⾒
た⽬の変化だけでなく、⼈の視線や⼼ない⾔葉、学校や職場での過ごしづらさに悩む⼈もいます。
「髪がないことは不便かもしれない。でも、不幸なことではない」。そう話すのは、NPO 法⼈
Alopecia Style Project Japan(ASPJ)理事長の⼟屋光⼦さんです。⾃⾝も幼少期から抜⽑症を
経験し、現在は当事者や家族の交流、学校での講演、アートやファッションを通じた啓発活動に
取り組んでいます。
髪があることを前提とした社会の中で、どんな⾔葉や⽀援が当事者を苦しめ、何が⼒になるので
しょうか。⼟屋さんに、ASPJ を始めた理由と、⼦どもや家族を⽀えるときに⼤切にしていること
を伺いました。


髪がないことをかわいそうで終わらせたくなかった
――ASPJ を⽴ち上げたきっかけを教えてください。
もともとは、私を含め、原因の異なるヘアロス当事者3 ⼈が出会ったことから始まりました。髪がないと、周囲から「かわいそうな⼈」として⾒られることが多いんです。⾃分⾃⾝もショックを受けますし、家族や周りの⼈も⼼配します。けれど、治療をしても変化しにくい症状もあります。その状態のまま、ずっと『かわいそうな存在』として生きていくこと自体を変えていきたいと意気投合し、私たち自身で伝えていくことを選びました。
髪がないことは、確かに不便かもしれません。でも、それと不幸であることは同じではありません。
そのことを発信したいと考え、2017 年に任意団体として活動を始めました。活動を続けると、同じ悩みを抱える⼈が想像以上に多いことが分かりました。いじめに遭う⼦どもや、職場でつらい思いをする⼈の声を聞き、個⼈の悩みではなく社会の問題として取り組む必要があると考え、2021 年にNPO法⼈となりました。
――ヘアロスには、どのような⼈が含まれるのでしょうか。
円形脱⽑症が広がり、頭髪だけでなく眉⽑やまつ⽑まで抜ける⽅もいます。⾃分で髪を抜くことが⽌められなくなる抜⽑症、⽣まれつき髪が少ない乏⽑症や無⽑症、治療の副作⽤による脱⽑など、原因や症状はさまざまです。ASPJ は、様々な理由でヘアロスの症状を持つ当事者の方と、その家族がつながれる場をつくっています。
治ることだけを正解にしない
――⼦どもや保護者への⽀援に⼒を⼊れているのはなぜですか。
私⾃⾝、⼩学校1 年⽣の頃から症状がありました。また、⽣まれつきヘアロスのある⼦どももいます。
⼤⼈になれば、住む場所や働く環境を⾃分で変えられることもありますが、⼦どもの⽣活範囲は学校や塾、習い事などに限られます。その環境で悩みを抱えると、逃げ場が少なくなってしまいます。
保護者からは「⼦どもにウィッグを着けさせた⽅がよいでしょうか」と相談されることがあります。ウィッグは⼤切な選択肢の⼀つですが、まず、その子自身が、本当はどうしたいのかを一緒に考え向き合っていく時間を大切にしてほしいと思っています。⼤⼈が安⼼するための選択になっていないか、⼦どもの気持ちを置き去りにしていないかを考えることが⼤切です。
――周囲の善意が、本⼈を苦しめることもあるのでしょうか。
あります。例えば、髪が⽣えてきたとき、先⽣や家族が⼀緒に喜んでくれることがあります。もちろん、そこには愛情があります。ただ、抜けたり⽣えたりを繰り返す⼈にとって、「⽣えることが正解」と強く受け⽌められると、また抜けたときに⾃分を否定されたように感じることがあります。
ヘアロスは、ストレスだけが原因とは限りません。それでも保護者が「妊娠中の⾃分の⾏動が悪かったのではないか」「育て⽅が原因ではないか」と⾃分を責めることがあります。原因探しだけに向かうのではなく、今の⼦どもと家族がどう過ごしていきたいのかを⼀緒に考えられる⼈につながってほしいと思います。
10年後の当たり前を変えていくために
――学校や先⽣には、どのような対応を望みますか。
学校で講演をすると、先⽣から「⾝近にも同じ症状の⼦がいるけれど、どう接すればよいか分からない」という声を聞きます。先⽣にすべてを解決してほしいとは思っていません。分からないときに、当事者団体や必要な情報へつないでいただければ、それだけでも⼤きな⽀えになります。
⼩さな⼦どもは、「こういう理由で髪がないんだよ」と伝えると、「そうなんだ」と受け⽌め、そのまま⼀緒に遊べることも多いです。⼀⽅、⼤⼈が「病気かもしれないから聞いてはいけない」と過度に特別扱いすると、かえって距離が⽣まれることがあります。本⼈の気持ちを尊重しながら、必要以上に隠すものにしないことも⼤切です。
⾒た⽬について⼈をからかうことは恥ずかしい。そんな認識が、10 年後には当たり前になってほしいと思っています。違いについて学び、その⼈⾃⾝を⾒ることを、⼦どもたちと⼀緒に考えていきたいです。

■未来の⼦どもたちのために、サポートハンドブックも制作。PDF にて読めます。
「かわいそう」を「かっこいい」に変える
――ASPJ の写真やイベントには、明るく華やかな印象がありますね。
私たちは、かわいそうな姿を発信したいわけではありません。ヘアロスのある⼈を⾒て、「かっこいい」「きれい」と感じてもらえるところまで表現を振り切ると、受け取る側の⾒⽅も変わりやすくなります。理事にフォトグラファーがいることもあり、アート写真の撮影やファッションを取り⼊れた発信を続けています。撮影を通じて、⾃分の姿を初めて肯定的に受け⽌められたという⽅もいます。
ASPJ では、当事者や家族の交流会、オンラインのおしゃべり会、ウィッグの試着会、撮影会、⼦ども向けの活動、学校や教育関係者への講演などを⾏っています。治るか治らないかだけではなく、「この⾃分で、どう⽣き、どう暮らしていくか」を考えられる場所をつくりたいと思っています。
⼀⼈で抱えず同じ経験を持つ⼈につながってほしい
――今、髪のことで悩んでいる⽅や家族に伝えたいことはありますか。
ヘアロスの悩みは、症状によっても、年齢や⽣活環境によっても違います。⼦ども、保護者、働く⼥性、男性では、必要な情報や話したいことも異なります。同じ症状を経験した⼈だからこそ分かる、⼩さな⼾惑いや⾔葉にならない気持ちがあります。
ASPJ には、さまざまな症状を経験したメンバーがいます。交流会やオンラインで話す機会もあります。どこに相談すればよいか分からないとき、まずは⼀⼈で抱えず、同じ経験を持つ⼈や団体につながってください。ウィッグを着ける、着けない。髪を隠す、⾒せる。どれか⼀つが正解なのではなく、⾃分に合った選択肢を⾒つけることが⼤切です。
髪があることも、ないことも、その⼈の⼀部です。髪の状態によって、やりたい仕事や学び、外出、おしゃれを諦めなくてよい社会にしたい。誰もが⾃分らしい⽣活を選べるように、当事者、家族、学校、医療、社会をつなぐ活動を続けていきます。
――ありがとうございました。
編集部より
脱⽑や抜⽑にはさまざまな原因があります。診断や治療については⽪膚科などの医療機関へご相談ください。学校や職場での過ごし⽅、ウィッグなどの選択、家族の関わり⽅について迷ったときは、ASPJ のような当事者団体につながることも選択肢の⼀つです。




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