「誰に何を言われても、上辺だけの言葉にしか聞こえなかったんです。」
そう振り返るのは、22年前に乳がんを経験した江見子さんです。
37歳で乳がんと診断され、38歳で手術を受け、抗がん剤治療も経験しました。そして、その2年後に再発しました。
仕事を辞め、抗がん剤治療によって髪が抜け、外へ出ることさえ嫌になった時期もありました。
そんな江見子さんを少しずつ変えていったのは、同じ病気を経験した人たちとの出会いでした。
現在は、自身の経験を誰かの希望につなげたいと、乳がん経験者を支える活動を続けています。
ピンク先輩に聞いてみよう!

37歳で乳がん、そして2年後に再発
江見子さんが乳がんになったのは37歳の時でした。
38歳で手術を受け、抗がん剤治療も経験しました。そして、その2年後に再発しました。
「最初の抗がん剤では髪の毛は抜けなかったのですが、再発した時は全部抜けました。本当につらい闘病生活でした。」
治療に伴い、仕事も辞めることになりました。髪が抜け、治療の影響で体はむくみ、顔色も悪くなりました。
「自分がすごく醜くなったように感じていました。髪の毛が伸びてくるまで2年くらい、本当にどこにも行きたくなかった。ふてくされたような感じでしたね。」
病気になる前には当たり前だった「外へ出る」ということさえ、できなくなっていました。

検査時の写真。治療中は辛い日々でした
同じ病気の人と話せる場所を見つけた
当時は今のようにSNSがある時代ではありません。携帯電話ではiモードのメールが使える程度。乳がんを経験した人が周囲にいることも少なく、病気を公表する人も多くありませんでした。そんな時、新聞で知ったのが、乳がん経験者のためのオンライン患者会でした。
「リアルの患者会もありました。でも、外へ出たくない私にはハードルが高かったんです。」
オンラインなら、ハンドルネームで参加できます。
自己紹介のページを作り、チャットやメールを通して、全国の乳がん経験者とつながることができました。
「私にはぴったりでした。同じ病気の方と全国で話ができることが、本当に心の支えになりました。」
やがてオンラインだけでなく、実際に顔を合わせる「オフ会」にも参加しました。集まったのは20人ほど。同年代の人もいれば、年上の人、年下の人もいました。そこで初めて、同じ病気を経験した人たちと直接話すことができました。
「どうせ、かわいそうだと思っているんでしょ」
当時の江見子さんは、周囲からどんな言葉をかけられても、素直に受け取れなかったといいます。「誰に何を言われても、上辺だけの言葉にしか聞こえなくて。『どうせ、かわいそうだと思っているんでしょ』と思っていました。」
心配してくれる人が嫌だったわけではありません。けれど、病気を経験していない人の言葉を受け止める余裕が、その時の自分にはなかったのだと思います。
そんな時だからこそ、同じ乳がんを経験した人の存在が大きな支えになりました。
多くを説明しなくても分かってもらえる。
それぞれ違う経験をしながら、病気と向き合っている人がいる。
そして、病気を経験した後も、自分らしく暮らしている人がいる。
「本当に救われました。助けられました。」
江見子さんの言葉から、経験を分かち合うことの力が伝わってきます。
助けてもらったから、今度は自分が
やがて、オンライン患者会を立ち上げた方が、大阪で乳がん患者をサポートするNPO法人を設立することになりました。江見子さんは「私にもお手伝いをさせてください」と申し出て、理事として活動に参加しました。
「助けてもらったから、今度は自分が」
そうして始めた活動は、結果として江見子さん自身が社会ともう一度つながるきっかけにもなっていきました。
月々のお茶会やおしゃべり会を手伝ったり、治療で眉毛が抜けた人のために講師を招いてお化粧方法を学んだり、医師を招いた講演会を開いたり。
そうした活動を一つひとつ続けていきました。気がつけば髪も伸び、外へ出て、人と会うことも増えていきました。

セミナーや講演会にも登壇
経験だけで話すのではなく、常に新しい知識を
現在、江見子さんはピンクリボンアドバイザー中級の資格を取得し、がん教育認定講師としても学びを続けています。乳がんを経験した自分が、なぜ改めて勉強する必要があると思ったのでしょうか。
「経験だけで話すのでは、駄目だと思ったんです。人とお話しする時に、間違ったことは言えませんから。」
乳がんに関する知見や治療法は、時代とともに変わっていきます。
自分が治療を受けた20年以上前の常識が、今も同じとは限りません。
だから、経験者として寄り添うことと、乳がんについて新しい知識を学び続けること。この二つを大切にしているそうです。

常に新しい知識を学びながら、経験者として寄り添うことも心掛けている
私の経験が、誰かの希望や光になったら
江見子さんは、自分の役割を「アドバイスする人」とは考えていません。
診断されたばかりの人や治療中の人が必要としているのは、まず医療従事者からの正確な情報です。
一方で、治療から時間がたち、これからの人生を考え始めた時には、経験者だからこそ話せることがあります。
例えば、治療後の下着をどうするのか。
外見の変化とどう付き合っていくのか。
夫婦生活やパートナーとの関係をどう考えるのか。
そして、
「体調が良くなってきた。これから何か始めたい」
と思った時、どう一歩を踏み出すのか。
こうしたことは、病院ではなかなか聞きにくいものです。
「思いを吐き出したい時には、経験者だから聞けることもあると思うんです。『そうだよね。つらいよね』って。」
まずは、その気持ちを受け止める。かつて同じ病気を経験した仲間たちに支えてもらったように、今度は自分が誰かの話を聞く。
「経験に無駄なものはないと思っています。私の経験が、誰かの希望とか光になったらいいな」
江見子さんは、そんな思いで活動を続けています。

